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本の紹介

高校生や大学生(学部生)から「気象関連の良い本はありますか?」という質問をたびたび頂くので,このようなページを作成してみました。「おすすめの本」というよりは,あくまでも「僕がいままで読んできた本」の紹介です。本棚を一部だけチラ見せするくらいの感覚ですね。

ところで,自戒も込めて断っておきますが,本当に気象学を理解したい,例えば大学院で気象の研究をしたいというのであれば,まずはいま学んでいる高校や大学の数学や物理をしっかりと身につけることです。ベクトル解析も球面調和関数も知らない人が気象学をすることは難しいからです。とはいえ,早いうちから興味のままに発展的な勉強をすることも意義深いと思いますので,怖気ることなく難しそうな本にもチャレンジして頂きたいところです。また,ここで紹介する本には英語で書かれたものもあります。気象学という学問はプレイヤーが少ないこともあって和書には限りがあり,洋書を読まざるを得なくなるときが比較的早く訪れます。論文も英語で書かれたものがほとんどです。英語が苦手だからと言って英語から逃げる選択肢は存在しません。


もういちど読む 数研の高校地学

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数研出版編集部 (数研出版)

高校地学の教科書の大気海洋分野は非常によくまとまっているので,入門に最適かと思います。もちろん,固体地球や惑星科学の勉強にもなります。検定教科書が手に入りにくいという方も,一般向けに書き直された本が数研出版から出版されています。ちなみに,数研出版の教科書の大気海洋分野の執筆は,僕の指導教員である中村先生が担当されています。



改訂版 流れの科学 自然現象からのアプローチ

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木村竜治 (東海大学出版会)

木村先生による地球流体(回転成層流体)についての一般向けの名著です。流体の相似則に基づいて地球流体で生じる現象をときに写実的に,ときにアナロジカルに巧みに描写する,初学者にも親しみやすい一冊です。物語風で縦書きであることも特徴的です。地球流体を一通り学んだあとに読み返しても,「なるほどこれはそういうことだったのか!」という発見があり,僕も大きくなったらこんな本を書いてみたいものだと憧れます。



一般気象学

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小倉義光 (東京大学出版会)

気象予報士試験を受験する方から絶大な支持を集める小倉先生の気象学の教科書です。力学から物理過程(放射や降水過程など),メソスケールの現象まで,幅広く入門的な解説がなされており,気象学が取り扱う現象を概観するのに適した本です。現象の記述に重点がおかれているので,理論やメカニズムに関心がある方には物足りないかもしれませんが,初めて読む本としては良いと思います。



Atmospheric Science: An Introductory Survey

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J. M. Wallace & P. V. Hobbs (Academic Press)

力学,熱力学,大気化学,放射,雲微物理など,気象に関連する様々な事柄を一通り解説した教科書です。本のサイズが大きく重いのが玉に瑕ですが,図がフルカラーで美しく,まるで図鑑のように楽しく読むことができます。入門書的な性格をもつものの,個々のトピックに関して深く解説されている印象です。ちなみに著者のWallace先生は僕の指導教員の指導教員でもあります(つまり僕は畏れ多くも孫弟子)。



気象がわかる数と式

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二宮洸三 (オーム社)

二宮先生が書かれた,気象学の数式を用いた記述に重きをおいた教科書です。僕は高校生のときにこの本を買って勉強していました。体系的な学習には必ずしも向いていないかもしれませんが,気象のような身近な対象を数式で記述できることに喜びを見出すタイプの人に適していると思います。構成がよく整理されているので,辞書的にも使いやすい本です。



岩波基礎物理シリーズ 2 連続体の力学

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巽友正 (岩波書店)

大学理工系1~3年生向けの物理の教科書シリーズの一つ。質点や剛体とは異なり,空間的に連続的な広がりをもち内部で運動や変形がおこる物体を連続体といいますが,その力学の基礎を記述したものです。地球はほとんど連続体(流体や弾性体)として記述できますから,地球物理学全般を学びたい人に向いています。僕は学部3年になって地球惑星物理学科に進学したときに,先輩から勧められて読みました。



新装版 地球惑星科学 6 地球連続体力学

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松井孝典,松浦充宏,林祥介,寺沢敏夫,谷本俊郎,唐戸俊一郎 (岩波書店)

大気,海洋,磁気圏,地殻,マントル,核で生じる運動や変形の多くは,連続体の力学で記述することができます。この本では地球を対象にした連続体力学に関して幅広く書かれています。詳細な式の導出や解説を行うよりは,網羅的に要点を押さえることに重きをおいている印象です。この本で一から勉強するというよりは,ある程度学んだ人が辞書的に活用することに適した本だと思います。



Atmospheric and Oceanic Fluid Dynamics: Fundamentals and Large-Scale Circulation

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G. K. Vallis (University Press)

Vallis先生が書かれた大気海洋の流体力学の教科書。総観規模以上の比較的大規模な現象の力学について体系的に書かれています。僕は大学院の教科書読みセミナーでこの本を読み,大変勉強になりました。力学を一からしっかり学びたい人に向いています。特に,あらゆる現象をできるだけ簡潔な物理でスマートに説明しようと試みる姿勢が随所に表れており,物理が好きな人には心地よさを感じると思います。



An Introduction to Dynamic Meteorology

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J. R. Holton & G. J. Hakim (Elsevier)

気象学を学び始める人がほぼ必ず読むと言っても過言ではない,Holton先生の入門的な教科書。力学と熱力学の基礎的な方程式系の導出から始まり,総観規模の現象の力学を中心に幅広く解説されています。僕は学部3~4年生のときに,同期との自主ゼミで読みました。いまでも分からないことに出くわすと,まずはHoltonに立ち還ろうということで読み直すことがしばしばあります。



総観気象学入門

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小倉義光 (東京大学出版会)

一般気象学の小倉先生が書かれた,総観規模の現象について記述された本。前半では主に基礎的な方程式系や準地衡の力学について書かれ,後半ではより具体的な現象である温帯低気圧の構造や発達について書かれます。具体例として天気図や衛星画像も多く引用され,まさに日々変化する気象のメカニズムを知りたい人に向いています。



「異常気象」の考え方

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木本昌秀 (朝倉書店)

木本先生が書かれた異常気象や地球温暖化にまつわる一般向けの解説書です。日々変化する気象というよりは,より長期的な天候や気候について,専門家がどういうモノの見方をするのかを,かなり専門的な内容まで踏み込んで詳細に解説しています。この本を買ったので木本先生にサインを頂こうとしたら,「これは古い版で,いまは新しい版が出ていますから,ぜひそちらもお買い求め頂いて・・・」と言われました(木本節)。



気候システム論 グローバルモンスーンから読み解く気候変動

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植田宏昭 (筑波大学出版会)

植田先生が書かれた気候力学の教科書です。比較的長期の大気海洋変動の力学について書かれていますが,数式は必要最低限にとどめ,具体的な現象の記述に重きをおいている印象があります。難しい理論的背景にまでは踏み込まないので,日々の天気よりも長い時間スケールの現象に興味をもった人が最初に読むのに向いていると思います。



新装版 地球惑星科学 11 気候変動論

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住明正,安成哲三,山形俊男,増田耕一,阿部彩子,増田富士雄,余田成男 (岩波書店)

気候システムについて,その形成および経年変動から古気候に至るまで幅広く記述された本です。詳細な式の導出や解説を行うよりは,網羅的に要点を押さえることに重きをおいている印象です。この本で一から勉強するというよりは,ある程度学んだ人が辞書的に活用することに適した本だと思います。



入門統計解析

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倉田博史,星野崇宏 (新世社)

気象の研究を行うにあたって,多くの人は統計解析を行うことになります。なので,研究を始める学年になるまでに,統計の基礎をある程度身につけておくことが望ましいです。統計の入門書は巷に溢れかえっているので,どんな本を読んでもいいと思いますが,ここでは僕が学部教養時代に使っていた基礎統計の教科書を挙げておきます。



新しい誤差論 実験データ解析法

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吉澤康和 (共立出版株式会社)

主に物理実験における誤差の取り扱い方やその背景にある理論について解説した本ですが,一般的なデータ解析における統計手法の理解にも役立つと思います。



スペクトル解析

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日野幹雄 (朝倉書店)

理工学分野に限らず幅広い分野で応用されるデータ解析手法の一つであるスペクトル解析について,その理論から実際の計算法までを網羅した日野先生の解説書です。



Statistical Methods in the Atmospheric Sciences

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D. S. Wilks (Elsevier)

大気科学における統計手法について網羅的に書かれた本です。さすがに通読する気にはならないので,辞書的に使用しています。



流体力学の数値計算法

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藤井孝藏 (東京大学出版会)

気象学においてコンピュータによる数値計算は必要不可欠な研究手法です。数値計算には数値計算特有の理論が存在し,そのような流体力学の数値計算法の基礎がまとめられた教科書です。