気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 - 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 平成22年度~26年度

黒潮続流循環系の形成・変動のメカニズムと大気・海洋生態系への影響

研究成果:微小な海洋渦が中規模渦などの大きな現象に及ぼす影響

海洋では、黒潮など強い海流の周辺で直径100kmから300kmの「中規模渦」の活動が活発で、海流とともに熱や様々な物質を輸送し、全球規模の熱輸送や水産資源の形成に大きな役割を担っています。一方、地球観測衛星で撮影された画像には、渦と渦が互いに干渉してできた幅の狭い筋状構造の流れや、中規模渦より小さな微小渦など1~50kmスケール規模更に小さな現象が世界中の様々な海域で観測されています。これらの小さな現象を総称してサブメソスケール現象」と呼んでいます。

図1: 北西太平洋における冬季(2002年3月15日)と夏季(2002年9月15日)の海面流速の回転成分(相対渦度:暖色は時計回りの暖かい渦、寒色は反時計回りの冷たい渦)。混合層が厚い冬季(薄い夏季)に小さなサブメソスケール現象が活発(穏やか)になる。

これらの海洋のサブメソスケール現象ですが、近年の研究によって、大気が海洋を冷却する冬季に海洋の表層で密度一様の混合層と呼ばれる層が厚くなると、その混合層の内部で活発になり、さらにサブメソスケール現象に伴う強い鉛直の流れが海洋の表層と内部との熱交換、物質交換を促進し、海洋循環に大きな影響を及ぼすと考えられるようになってきました。しかし、サブメソスケール現象を捉える高解像度で高頻度の現場観測は困難で、またコンピュータの計算能力の制約から1,000kmスケールの大規模な海洋循環とサブメソスケール現象を同時に再現できるシミュレーションは行われてきませんでした。

そこで、本研究では北太平洋域に領域を絞りながらも黒潮などの大規模循環とサブメソスケール現象を両方とも同時に再現可能な解像度3km(1/30度)の高解像度海洋シミュレーションを実施しました。シミュレーションではこれまで研究と同じように、サブメソスケール現象の活動は、冬季に海洋が冷やされて混合層が厚くなる黒潮続流の周辺で活発になり、夏季に海洋が暖められて混合層が薄くなると穏やかになる季節変動が再現されました(図1、こちらで動画もご覧頂けます)。

これまでの研究からサブメソスケールの微小渦や筋状構造は、互いに干渉して結合、分離、または減衰し、中規模渦などとも干渉し合い複雑に相互作用していると考えられています。そこで、シミュレーション結果を用い、サブメソスケール(10~100km)、中規模渦などのメソスケール(100~200km)、更に大きなスケール(200~300km)に分けて、それぞれの活動度の2年間の変化を冬季にサブメソスケールが活発な海域(図1の点線で囲った海域)について調べました(図2)。その結果、活動が活発になる時期はスケールが大きくなるほど遅れていました


図2: 図1の点線で囲った海域内における2001年1月から2002年12月までのスケール毎の活動度(運動エネルギー)の変動。紫線:サブメソスケール(10〜100km)緑線:中規模渦などのメソスケール(100〜200km)赤線:更に大きなスケール(200〜300km)、黒線:サブメソスケールとメソスケール(10〜200km)。

なぜこのような遅れが生じるのでしょうか?冬季に厚い混合層内でサブメソスケール現象が活発になり、春から夏にかけて大気が海洋を暖めて混合層が薄くなると、サブメソスケールの活動は弱くなります。一方、サブメソスケール現象は互いに干渉し合い、また中規模渦と絡み合いながら、渦同士が結合して活動が盛んな大きさが徐々に大きくなっていきます。これらのプロセスが同時に進行することによって、冬季から初夏の数ヶ月の比較的長い期間、渦や筋状現象が相互に絡み合いながら活動が活発なスケールが徐々に大きくなることが明らかになりました。また、サブメソスケール現象から中規模渦を含むメソスケール(1~200km)の活動度は、夏季に比べ晩冬はほぼ2倍の大きさになっていました。これらの結果によって、大気が海洋を冷却する冬季の厚い混合層内で活発になるサブメソスケール現象の活動が、相互にまた中規模渦などと干渉し合いながら、中規模渦など大きなスケールの現象に多大な影響を及ぼしていることが明らかになりました。

本研究の高解像度シミュレーションで明らかになった冬季に活発になるサブメソスケール現象がもたらす中規模渦らとの相互作用とそれらの季節変動は、今後10年の間に打ち上げが予定されている地球観測衛星(NASA, CNES によるSWOT:The Surface Water Ocean Topographyミッションなど)で得られる高解像度海面高度データで観測面でも検証され、さらに全世界海洋での研究に発展することが期待されています。

この研究の詳細は以下の論文をご覧ください:Sasaki, H., P. Klein, B. Qiu, and Y. Sasai, 2014: Impact of oceanic scale-interactions on the seasonal modulation of ocean dynamics by the atmosphere, Nature Communications, 5, 5636.


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