教授挨拶



私たちの研究室が取り組んでいる気象学・気候力学の研究は、21世紀になってその重要性がますます高まっています。近年では異常気象・地球温暖化といった話題がメディアに登場しない日はない、と言っても過言ではありません。自然環境や防災だけでなく、産業・経済のさまざまな分野をはじめ、気象学・気候力学への社会からの要請は年々大きくなってきています。
これは、気象学・気候力学が物理法則に根ざした自然科学であり、現在の観測データを基に将来の状態をかなりの確からしさをもって数値的に予測できるからです。日々の天気予報は集中豪雨などの自然災害から命を守るために不可欠な情報を提供し、季節天候予測は農業やエネルギー、観光産業、保険など各種産業に役立つ情報を与え、さらに気候変化予測は人類の将来をも左右する政策決定の礎となる知見を社会に供するものです。
気象・気候の予測に不可欠なのは、大気・海洋の現状を把握するための十分な観測データと豊富な計算機資源です。これらの観測データや数値モデル予測データは、大気の循環や温度分布、雲・降水系の形成・変動の仕組みを理解し、それらの将来変化を解釈することを目的とした気象・気候力学の研究にとって極めて有用なものです。今日、計算機科学の急速な進歩に伴い、豊富な計算機資源を活かした数値気候モデルによる高解像度や長期の数値シミュレーション、人工衛星計測による大気海洋の新しい観測データ、さらには過去数十年にも及ぶ長期の大気循環データを活用した研究が益々重要になっています。

私たちの研究室では、数値天気予報の副産物である長期の大気循環データや雲・降水・気温・海面水温・海氷などの現場観測や衛星観測によるデータ、及び数値モデルによるシミュレーションの結果の解析・診断を通じた多角的な研究を推進し、大気循環系で起こるさまざまな時空間規模の重要な現象、及びそれら大気現象間のスケール間相互作用や海洋・雪氷・陸面との相互作用のメカニズムの解明、さらには変動現象の予測可能性の解明を目指しています。そして、将来これらの重要なテーマに取り組み、国内外で活躍できる人材の育成を目指しています。
気象、気候は私たちにとって身近な存在であり、かつこれから社会的にもより一層重要になってゆく分野です。ぜひ私たちと一緒に学び、探究してみませんか。

研究室では随時研究室見学を歓迎しています。
また毎年6月の初旬には研究室ガイダンスを行っております。

准教授挨拶

 地球の大気と海洋は相互に影響し合い、気候を形作ります。生態系は気候に応じて分布し、進化を遂げてきました。人類もまた、気候に応じて社会や文化を形成してきました。気候は一定ではなく、常に揺らぎ移ろうものです。この揺らぎが、例えばゲルマン民族の大移動やフランス革命の一因と言われるように、歴史にも影響してきました。
 気候の揺らぎや移ろいは、気候系の外部から与えられる強制によって引き起こされるものと、気候系の内部から自励的に起こるものとがあります。前者の外部強制の例として、火山噴火や太陽活動の変動、また人類の産業活動による大気組成の変化が挙げられ、特にこれらに対する応答として数十年よりも長い時間スケールで起こる変化を「気候変化(Climate Change)」と呼びます。人類が現在直面している地球温暖化は気候変化の一例です。また後者の気候系の内部から起こる揺らぎは「気候変動(Climate Variability)」と呼ばれ、数日から数十年に渡る様々な時間スケールで見られます。私たちが日々経験する気象、特に災害をもたらすような異常気象は、気候変化と気候変動の重ね合わせによって引き起こされるのです。これらは異なるメカニズムによって生起するのですが、私たちにはそれらの重ね合わさった状態しか観測できませんから、背後に隠されたメカニズムを紐解くには統計解析だけでなく基礎理論の理解が欠かせません。
 気候変動は大気や海洋の循環の揺らぎやそれらの相互作用によって沸き起こります。また、地球温暖化によって気温は地球上のほぼどこでも上昇しますが、その程度は地域や季節によって異なり、降水量は増加するところもあれば減少するところもあると予測されていて、このような空間分布や季節性には大気と海洋の循環の変化が関わっています。私たちの研究グループは、このような大気海洋循環やそれらの相互作用に着目し、気候の成り立ちや気候変動・変化のメカニズム、さらに気候変動と変化の相互作用の理解に挑んでいます。そのために、私たちは観測データに加えて数値モデル(コンピュータ上に作り出した仮想地球)によるシミュレーションを用います。3次元的に分布する様々な変数の、場合によっては数百年に渡るデータは膨大です。その中から、私たちは理論や積み重ねられた知見を駆使し、気候系で起こる様々な現象を抽出して、その背後にあるメカニズムや予測可能性の解明に取り組んでいます。
 このような気候系の理解は、それ自体が科学的興味の対象であるだけでなく、他の研究分野への応用や、ときには政策決定にも影響するほどに社会にとっての重要性を増しています。異常気象のメカニズムの理解は予測を改善するための足がかりになり、また人為起源の温室効果ガス濃度上昇がどのような気候変化をもたらしうるかはエネルギー政策の重要な根拠になりますが、その信頼性の検証にはメカニズムの理解が求められます。気象学・気候学は、物理法則から理論を組み立てる基礎科学でありながら、私たちの生活に直結する応用科学の側面も持ち合わせた数少ない研究分野の一つなのです。私たちの研究グループは国際的に活躍する研究者の育成に取り組んでいます。ともに気象学・気候学をさらに発展させ、今後も増していく社会からの要請に応えていこうという意欲のある学生の皆さんをお待ちしています。

研究室紹介

私たちの研究室は、本郷キャンパスにある理学系研究科地球惑星科学専攻の大気海洋科学講座から、駒場リサーチ(駒場Ⅱ)キャンパス内にある先端科学技術研究センター(先端研)に2011年4月に異動しました。
現在私たちが所属しているのは地球惑星システム科学講座ですが、学生の皆さんが講義を履修する時や学位論文を発表する際には、大気海洋科学講座と同様のカリキュラム及びプログラムで行います。

研究室は先端研3号館4Fにあり、京王・井の頭線 駒場東大前駅と池ノ上駅の中間あたり、東京大学・教養学部がある駒場Ⅰキャンパスから西に5分ほど歩いた所に位置しています。 この駒場Ⅱキャンパスは、駒場公園や日本近代文学館、日本民藝館にも近い、緑豊かなこぢんまりとしたキャンパスで、先端研、生産技術研究所、駒場オープンラボなどの研究機関が立ち並び、先端研には、理学系・工学系・医学系・文科系など、最先端の研究を行っている様々な学問分野の研究室があります。
本郷以外のキャンパスというと、遠い所にあるイメージがあるかもしれませんが、駒場Ⅱキャンパスは渋谷・新宿にも近く、駒場東大前・池ノ上・東北沢・代々木上原の4駅から徒歩圏内にあるため、交通の便はかなり良いです。実際、本郷キャンパスにも、代々木上原駅から地下鉄千代田線を利用すれば、乗り換えなしで30〜40分ほどのため、不便なく授業に出席する事が出来ます。
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駒場東大前駅の西口を出てすぐの所にこのような看板があります。

研究方針

大学院は、未解明の問題の解明を目指してじっくり研究に取組むことを通じ、物事を論理的に考える力や、膨大な量のデータから本質的な情報を抽出できる科学的センス、さらには自ら立てた仮説を説得力をもって検証できるような数値モデル実験やデータ診断法の立案能力などを養うところです。
私たちの研究室では、学部で学んだ知識をさらに深め、自発的に研究に取組み、自らじっくり考える力を鍛えながら、地球の気候系という高度な複合系に生起する複雑な現象のメカニズムや予測可能性を探究する研究活動の醍醐味を見つけることができる、タフな学生を育てることを目指しています。
実際、研究室のOB・OGのうち計3名が、日本気象学会から優秀な若手研究者としての顕彰(山本・正野論文賞)を受けています。また、2名は博士号取得後、海外の研究機関に採用されました。

研究指導

私たちの研究室では、現在教員3名(教授、准教授、助教)とポスドク1名(特任研究員)の4人体制で、個別に随時研究指導を行っています。研究等で問題点や疑問点が生じた時には、スタッフにその場で質問をする事が可能です。
大学院生は、研究の進捗状況を毎週のグループミーティングにおいて報告をし、メンバー全員で結果についてしっかりと議論を行います。
研究室には外国人客員研究員が在籍することが多く、その期間は英語と日本語を交えての議論が行われるため、英語力も鍛えられます。さらには、学生がドイツやノルウェー等の研究機関との国際共同研究に関わることも可能です。なお、中村尚教授がリーダーを務める中緯度大気海洋相互作用に関する全国規模の研究プロジェクト等に関連して、多くの学生が学内外の複数の研究グループとの共同研究に関わっています。
また、地球シミュレータ等、豊富な計算機資源を利用して研究を進めることが、修士1年からでも可能です。例えば、陸地を全て海面にした仮想的な地球上で、海面水温の分布が高低気圧の活動にどのような影響を与えるのかを調べたり、北太平洋中緯度で観測された暖水偏差のみを与えた仮想的な状態での大気循環の変化を調べたりする実験などが、これまでの学生のテーマとして地球シミュレータを用いて行われています。
なお、観測や現実的な数値実験で得られた膨大なデータの解析や力学診断は気象学・気候力学において基本的な研究手法であり、これはどの学生にも必ず一度は体験して頂きます。
研究成果がまとまると、学年に関係なく、国際学会での研究成果発表や論文の投稿を積極的に行います。修士1年生でも国内外の国際学会で発表を行うことも可能です。

セミナー(勉強会)

輪講(週1回)

気象学や気候学の基礎的な教科書を講読します。
2010年度はCarlson (Mid-Latitude Weather Systems)とHouze (Cloud Dynamics) 、2011・2012年度はMcWilliams (Fundamentals of Geophysical Fluid Dynamics)、2013年度はVallis (Atmospheric and Oceanic Fluid Dynamics) を講読しました。2014年度は引き続きVallisを講読しています。

論文紹介(月2〜3回)

自分の研究テーマに関連する研究論文等の内容を紹介し、それについて皆で議論します。

教養学部生との輪講(夏休み、春休み)

気象に興味のある学生が集まり、気象学の入門書を修士学生が中心となって読み解きます。上で紹介した中村研の輪読に比べ、より丁寧にゆっくりと英語を読む、という点に重点を置いて進めるものです。 2012,2013,2014年度の春休み・夏休みにはWallace and Hobbs (Atmospheric Science)の1-6章を扱いました。
興味のある方は、okajima(at)atmos.rcast.u-tokyo.ac.jpまでご連絡ください。

外国人研究者のセミナー(不定期)

海外からの研究者の来訪も多く、英語でのセミナーも開催しています。
2010年度は、ドイツ・キール大学のOmrani博士他、
2011年度は、ハワイ大学のSchneider博士他、
2012年度は、中国科学院のWang博士他、
2013年度は、インペリアルカレッジロンドンのCzaja博士等にセミナーをして頂きました。

※この他、毎週グループミーティングにおいて、各メンバーの研究結果について全員でしっかりと議論します。もちろん、各教員と個別に研究に関する議論も行うことができます。

※理学部地球惑星物理学科、または地球惑星環境学科の4年生の特別研究・卒業研究を教員が指導する際、基礎的な教科書や論文の購読、研究結果の議論に一緒に参加することもできます。

他の研究室との合同セミナー

本郷・先端研合同セミナー(不定期)

本郷の大気海洋科学講座との合同セミナーです。

物質輸送合同セミナー(不定期)

本郷の大気化学・物質輸送を専門とする研究グループとの合同セミナーです。

気候力学合同セミナー(不定期)

大気海洋研究所(AORI)の気候力学を専門とする研究グループとの合同セミナーです。

表層環境セミナー(不定期)

本郷の地球惑星システム講座の表層環境グループとの合同セミナーです。

※この他、研究連携を続けている海洋研究開発機構の野中正見チームリーダーのグループが主宰する会合で、自身が取り組んでいる研究について紹介し、気象・海洋の専門家と議論することができます。