気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 - 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 平成22年度~26年度

太平洋十年変動ワーキンググループ

研究成果:2つの海洋前線帯の十年規模変動に見られる長期変調

十年規模変動のような周期の長い変動にとって、大気よりも熱容量が大きい海洋の果たす役割は重要であると考えられています。北太平洋の海面水温変動の激しい領域として、黒潮と親潮の境に生じる「亜寒帯海洋前線帯」と、その南東に見られる「亜熱帯海洋前線帯」があります。海洋前線帯は海面水温勾配が大きいのが特徴で、勾配が大きいために変動も大きくなる傾向にあります。

図1: 海面水温の冬季平均気候値(細線は2度毎、太線は10度毎)とその南北勾配の大きさ(色:度/100km)。黒破線は亜寒帯海洋前線帯、赤破線は亜熱帯海洋前線帯を示す。

比較的近くに存在するこの2つの海洋前線帯に沿った海面水温の十年規模変動は、互いに関連していないことが統計的に示唆されています。そして、亜寒帯海洋前線帯の変動は熱帯の海面水温変動との関連が弱く、中・高緯度にあるアリューシャン低気圧の変動を伴います。一方、亜熱帯海洋前線帯の変動は熱帯の海面水温変動との関連性が強く、亜熱帯域の海面気圧の変動を伴います。興味深いのは、亜寒帯海洋前線帯に関連した変動が1980年代までは非常に強かったものの、1990年以降は弱化してしまい、むしろ亜熱帯海洋前線帯の変動の方が近年は強化していることです。

図2: (左) 東経150度~170度で平均した冬季平均海面水温の3年移動平均を黒細線で、その気候平均からの偏差を色と白線で示した。(右) 東経150度~170度で平均した冬季平均海面水温気候値の南北温度勾配を示し、北緯40~45度付近の極大は亜寒帯海洋前線帯を、北緯25~30度付近の極大は亜熱帯海洋前線帯を捉えている。左図内の黒太長破線と黒細短破線はそれぞれ亜寒帯海洋前線帯と亜熱帯海洋前線帯での十年規模変動が活発だった時期を示す。

こうした十年規模変動の長期変調は、大気海洋結合モデルを用いたシミュレーションにおいても生じ得ることが確認できました。興味深いことに、地球温暖化に伴う温室効果ガスの増加等を考慮していないシミュレーションにおいて、観測と類似の変調が生じ得るのです。つまり、外的な要因がなくとも、大気海洋結合システムがもつ内的揺らぎとして十年規模変動の変調が生じる可能性を、我々のシミュレーション結果は示唆しています。

シミュレーション結果は往々にして用いたモデルに依存します。そのため、我々のシミュレーション結果の妥当性、普遍性を論じる上で、他の研究機関のモデルを用いたシミュレーション結果を調べることが有効で、今後の課題です。地球温暖化研究を契機として、世界中の研究機関によるシミュレーション結果が提供されており、その中には海洋前線帯をある程度再現しているものあります。我々のシミュレーションと同様に、外的な強制を与えないシミュレーションにおいて観測に似た十年規模変動の長期変調を示すモデルが40%ほどあることが判りつつあり、これらの解析を行うことで十年規模変動の長期変調についての理解が今後さらに深まることが期待されます。


専門家の皆様へ:本研究についての詳細は以下の論文をご覧下さい。

Miyasaka, T., H. Nakamura, B. Taguchi, and M. Nonaka, 2014: Multidecadal modulations of the low-frequency climate variability in the wintertime North Pacific since 1950. Geophys. Res. Lettl, 41, 2948-2955. doi: http://dx.doi.org/10.1002/2014GL059696


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