気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 - 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 平成22年度~26年度

黒潮続流循環系の形成・変動のメカニズムと大気・海洋生態系への影響

研究成果:温かい「亜寒帯前線帯」がアリューシャン低気圧を弱くする

北海道から東北地方沿岸を南下した親潮は、その後北東へ向きを変え北太平洋へ続く海流となります。この海流に沿って、海面水温が南北方向に大きく変化する「亜寒帯前線帯」と呼ばれる水温前線が形成されます。この海面水温の強い勾配が海上の気温にも勾配を作ること、また、それがその上空を通過する移動性高低気圧の発達に強く寄与することが、領域代表者らのこれまでの研究から示されてきました。

図. 11月の亜寒帯前線帯での海面水温偏差(色)に対する翌1月の海面気圧の回帰係数(等値線)の分布。11月に亜寒帯前線帯で海面水温が高いとき2ヶ月後(1月)にアリューシャン低気圧が弱くなる傾向が見られ、大気変動が遅れることから海洋変動が大気変動に影響しているものと考えられる。海面気圧だけでなく対流圏全体にその影響が見られる(図略)。

このようなこれまでの知見を踏まえて、同じメカニズムを通じて海洋の経年〜十年規模変動が大気の変動へ影響することがあるのかを詳しく調べました。過去50年弱の観測データを用いて、「亜寒帯前線帯」での海面水温と、海面気圧や上空の気圧の変化の関係を調べたところ、初冬(10月、11月)の海面水温が温かいときに12月と1月にアリューシャン低気圧が弱くなる傾向が見られました(図)。

風が強いと水温が下がる、といったように大気の変動も海洋に強く影響しますので、両者の変動の因果関係を明確にすることはしばしば大変困難です。しかし、ここでは、海面水温の変化が先に起き、それに1, 2ヶ月遅れて大気の変化が起きることから、海洋の変動が大きなスケールの大気変動へ影響する、という関係が明らかになりました。

興味深いことに、このような傾向は2月には殆ど見られなくなり、同じ冬という季節の中でも大気の振る舞いが大きく異なることも分かりました。大気の状態の年々の変動に関する研究では、これまで多くの場合に季節平均した場(例えば冬季なら12月〜2月の平均)を用いてきています。このため、季節内での相違をきちんと考えることが重要であることを示した点でも、この結果は今後非常に重要なものになると考えています。50年弱の観測データは十年規模変動を議論するには少々心許無いのですが、亜寒帯前線帯を表現できる大気海洋結合モデルを用いた120年間のコンピュータシミュレーション結果からも、この結果を確認することができましたので、信頼性が高い結果と考えられます。

この研究の詳細は以下の論文をご覧下さい:Taguchi, B., H. Nakamura, M. Nonaka, N. Komori, A. Kuwano-Yoshida, K. Takaya, and A. Goto, 2012: Seasonal evolutions of atmospheric response to decadal SST anomalies in the North Pacific subarctic frontal zone: Observations and a coupled model simulation. Journal of Climate, 25, 111-139.


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