気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 - 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 平成22年度~26年度

日本周辺に発生するポーラーロウの統計

A01-K1. 日本周辺に発生するポーラーロウの統計
代表 柳瀬 亘#(東京大学・助教)

[学位取得:#気象学]

冬季の日本海上には水平スケールが数百kmの小低気圧が現れることがある(図1)。この小低気圧はポーラーロウ(polar low; 寒気内の小低気圧)と呼ばれ、温暖前線と寒冷前線を持つ温帯低気圧(水平スケール千km以上)とは異なるタイプの低気圧である。ポーラーロウは主に高緯度の海域で発達し、強風・豪雪・波浪により海洋上や沿岸域の社会に大きな影響を及ぼすため、中高緯度の欧米諸国で盛んに研究されてきた。比較的に低い緯度に位置する日本海においても、日本海側地域の里雪型豪雪、北海道松前沖での6千トン船舶の海難事故(1981年2月)、山陰本線余部鉄橋での列車転落事故(1986年12月)などを引き起こしている。

なぜ高緯度の海洋上でポーラーロウのような小低気圧が形成するのだろうか?ポーラーロウは、冬季の大陸・海氷上で形成した寒気が相対的に暖かい海洋上へ吹き出す場の中で形成する。寒気は海面から熱と水蒸気を供給されることにより不安定化し、積雲対流も活発になる(気団変質)。この積雲対流によって放出される凝結熱が小低気圧を発達させるエネルギー源となっている。また、寒気は陸地から離れるほど気団変質が進むため、これによる水平方向の温度差も小低気圧を発達させるエネルギー源となりうる。

近年、客観解析データ・数値シミュレーションの高解像度化や気候変動への関心に伴い、ポーラーロウの統計的な研究が盛んになってきている。本研究では、日本周辺のポーラーロウについても統計的な理解を深めるため、次の3点を目標に掲げる。

  1. (i)   JRA-55などのデータから客観的にポーラーロウを検出するトラッキング手法を開発する。トラッキング手法は温帯低気圧や台風などの強く大きな低気圧ではよく使われてきたが、数百kmの小低気圧に適用するには空間フィルタや時間間隔を工夫する必要がある。この手法が確立されれば、梅雨前線上の低気圧など様々なメソスケールの低気圧への応用も期待される。
  2. (ii)  再解析データや衛星観測の雲画像を利用して、ポーラーロウのデータベースを作成する(図2)。再解析データは数百kmの現象をどこまで表現できるかという問題があり、雲画像は渦の強さを直接に示す情報ではないという問題がある。これらを相互に比較することで、それぞれのデータの妥当性も検証する。
  3. (iii) データベースを利用して、ポーラーロウが発達しやすい条件を統計的に解析する。特に、海洋との相互作用や、上層の擾乱の影響について理解を深める。

図1: 2012年1月31日12UTCの可視画像。日本海北部にスパイラル状の雲パターンを示すポーラーロウが形成している。画像は高知大学気象情報頁のwebサイトより。参考資料: 冬のミニ台風「ポーラーロウ」(世界気象カレンダー2013)


図2: 1997年12月~2003年2月の6冬季(12,1,2月)の6時間ごとの小低気圧の分布。気象衛星センターで作成された雲解析情報図を利用して作成。


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