気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 - 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 平成22年度~26年度

北太平洋亜寒帯域の海洋酸性化の要因解明

A01-K4. 北太平洋亜寒帯域の海洋酸性化の要因解明
代表 脇田 昌英*(海洋研究開発機構・技術研究副主任)

[学位取得:*海洋学]

研究目的

産業革命以降、放出された大気中人為起源CO2の約30%は、大気海洋間の気体交換により海洋へ吸収する(IPCC, AR5)。その結果、弱アルカリ性の海水を酸性に近づけ、炭酸イオンを減少させ、炭酸カルシウムの化学的飽和状態を下げる。この海洋酸性化のため、炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ海洋生物の生育阻害が危惧されている。

そこで、高生物生産力で水産資源の豊富な西部北太平洋亜寒帯域は、冬季の二酸化炭素放出量の減少により冬季混合層の酸性化が懸念されているが(Wakita et al., 2010, 2013)、冬季以外の酸性化は未評価である。本研究は、この海域の酸性化の要因として、大気海洋間CO2交換量の経年変化に注目し、海洋炭酸系観測データを用いて、これまで解析が不十分な冬季以外の海面CO2交換量の経年変化を把握し、この海域の海洋酸性化をより正確に捉えることを目的とする。

加えて、西部北太平洋亜寒帯循環の空間規模や強度は、CTDデータと海面高度計データを組み合わせたGEM解析法から、最近10年で大きく変動をすることが示唆されている(永野ら、2012)。このことから、冬季の二酸化炭素放出量の変動要因として、ユーラシア大陸から吹く冬季季節風の変動による物理場の変動に注目し、亜寒帯循環の時空間変動が冬季二酸化炭素放出量の減少に果す役割を調べる。

研究計画

  1. (i)   時系列自動採水器による係留型時系列観測の実施
    冬季混合層内の変動を詳細に捉えるため、平成25年以降の航海において、時系列観測点K2で、セジメントトラップを搭載した係留系に冬季混合層内(100m以浅)に時系列自動採水器とCTD・酸素センサーを新たに設置する。その結果、温度極小層の安定性と冬季CO2/pH計算法の妥当性を評価する。
  2. (ii)  混合層内の酸性化とCO2気体交換の経年変化
    これまでの海洋炭酸系観測データから求めた気候値との差から酸性化とCO2交換量の各季節の経年変化を明らかにし、酸性化をより正確に捉える。また、溶存無機炭素の経年変化の要因解析を基に、酸性化に影響を与える他の要因(生物生産、炭酸カルシウム生成など)を評価する。
  3. (iii) 西部亜寒帯循環と冬季CO2放出量の変化の関係の解明
    GEM解析法により推定した物理場の変動(西部亜寒帯循環強度等)と、混合層厚、海上風、CO2フラックスの関係を調べ、冬季CO2放出量の経年変化を支配する要因を特定する。また、PDO等の気候変動indexと西部亜寒帯循環変動および混合層深の関係を調べ、大規模大気海洋相互作用が西部亜寒帯域の冬季CO2放出量に及ぼす影響の解明に迫る。

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