偏西風とその蛇行
キーワード 「偏西風の蛇行」
中緯度上空を流れる偏西風は、ときおり大きく南北に持続的に蛇行することがあります。この蛇行が持続すると、気温や降水が平年とは異なる状態が続くことになるため、偏西風の蛇行は異常気象をもたらす重要な要因の一つです。この蛇行が高緯度側にひときわ大きく起こっている場所ではブロッキング高気圧(後述)が形成されています。偏西風の蛇行をもたらす要因の一つは、ロスビー波(後述)と呼ばれる大規模波動のエネルギーが伝わってくることです。ロスビー波はエネルギーを東へ伝え、遠く離れた地域にあらたな偏西風の蛇行をもたらします。 例えば、2003年の夏季に北欧に現れた蛇行は数日後に日本にまで到達し、日本は冷夏に見舞われました。下の図は、2005年12月に日本の北方にブロッキング高気圧が見られた時の上空の風の流れ(矢印)と高気圧(暖色)・低気圧(寒色)を示しています。右図で示した1か月平均では日本上空を偏西風が西から東へ素直に流れているのに対し、ブロッキング高気圧が見られた12月2日(左図)には高気圧の周りを回るように偏西風が大きく蛇行している様子が分かります。

(左図)ブロッキング高気圧が起きた2005年12月2日の上空の高度場(暖色が高気圧、寒色が低気圧)と風。(右図)同月の月平均。
キーワード 「ブロッキング高気圧」
中緯度上空を流れる偏西風が大きく蛇行し、移動性高低気圧の移動が阻害される状態が1週間程度かそれ以上にわたって続くことがあります。この時、高緯度側に蛇行した偏西風は高気圧性の渦(北半球では時計回り)を伴い、これをブロッキング高気圧と呼びます。この高気圧と対になって赤道側に低気圧性の渦ができることもあります。ブロッキング高気圧は様々な異常気象をもたらすことが多く、その予測は長期予報にとって非常に重要ですが、同時に非常に困難でもあります。ブロッキング高気圧の形成・維持過程についてはロスビー波(後述)の入射と、ブロッキングによる西風の変化に伴って起こる移動性高・低気圧活動の変化が重要であると考えられています。キーワード 「ロスビー波」
普段の生活で我々は地球が回転している球体であることを実感することはありませんが、大規模な流れは回転球体の影響をかなり受けています(低気圧の周りで反時計回りの風が吹いているのはその一例です)。この回転球体の影響で高・低気圧は自ら西へ移動しようとする波動として振る舞う性質を持ちます。この波をロスビー波と呼びます。高・低気圧は西へ移動しようとしますが、上空の偏西風はそれを押しとどめようとします。結果として、高・低気圧がその場所にとどまり続けることがあります。この時、偏西風の蛇行(前述)が持続して異常気象がもたらされることがあります。なお、高・低気圧が移動しなくても、ロスビー波はその波動エネルギーを東へ伝えて、離れた場所に偏西風蛇行を引き起こすため、異常気象が各地で連鎖的に起こる要因となります。下の図は2010年8月上旬にユーラシア大陸上に見られた大規模波動(高・低気圧偏差の連なり)と、それにともなうエネルギーの流れ(矢印)を示しています。ロシア上空のブロッキング高気圧を経由して東向きに伝わるエネルギーが日本上空の高気圧まで到達している様子が分かります。この年の夏に猛暑をもたらした要因の一つと考えられます。

2010年8月上旬の上空の高気圧(暖色)と低気圧(寒色)。矢印はロスビー波にともなうエネルギーの流れ。